FC2ブログ

読書メモ:底なしにダークなエッセイ『おんぶにだっこ』 by さくらももこ

さくらももこさんのエッセイ『おんぶにだっこ』を読みました。私の「さくらももこコレクション」に最近加わった一冊です。著者の他のエッセイは、いずれも小3~大人が舞台ですが、この本は初めて(そして最後の)、それ以前のお話です。記憶力がすごく良くて、2歳半ぐらいのことでも鮮明に覚えているものがあるとか…。

で、内容ですが、ややこしそうな哲学書やシリアスな文学も顔負けの底なしに深刻な内容に、ビックリしました。さくらさんの本の魅力は、ナンセンスな笑いやホロリとさせられる感動の中に思わぬ深い内容が含まれていたりする点なのですが、『おんぶにだっこ』は、小さい子供の頃の話だというのに、ストレートにダーク(^^;;

特にヘビーな感じを受けたのを並べてみますと…。
友達の家から思わず綺麗なビーズをいくつか盗んできてしまって、良心の呵責にさいなまれる話。自分の祖母と近所のおばあちゃんが相次いで亡くなって、死の概念について初めて知った話。クラスメートのランドセルにキズをつけてしまい、そのことを言い出せず、しかも別の人が犯人ということになって苦悩する話。いじめられっ子を引っぱたいてしまった後、やるせない悲しい気持ちに陥った話。などなど。作者本人もあとがきで書いておられる通り「なんとも言いようのない読後感に見舞われる内容ばかり」なのです。

作者によれば「爆笑でもなく、感動でもない、何か」を伝えたかったそうです。その一つは「人間の根源的な部分への帰還」。これって哲学そのものですよね。「人間の思考回路の仕組みに気づいた時のことや、善悪の判断や、死の概念等、ある時、いつか誰でも気が付いた時があったはずだ。(中略)それは人格形成への大きな影響を及ぼした瞬間であり、すごくシンプルな自分の魂の骨格が見えてくるだろう」と、あとがきに書いています。

それから、伝えたかったもう一つの大きな要素は、人間は幼いころはピュアだったのが、成長とともに大人になるにしたがってピュアでなくなる、とよく言われるけど、それは本当にそうなのか?という疑問だそうです。これについても、あとがきに印象的で納得できることが書かれていますので、少々長くなりますが引用します。

人が大人になってゆくというのは、どういう事だろうと私はよく考えてきた。そして、出た答えは、経験をし、その意味に気づき、理解し、理解の中から生まれた知恵を生かしてゆく事、これが大人になってゆくという事だろうと思ったのだ。この答えは今でも変わっていない。

だから「大人は汚い」とか「汚れてゆく」とか言う人の話をきくと、そういうもんじゃないと思うけどなァ……と思っていた。

ひとつひとつの経験の中で、いろいろな意味に気づき、それについて悩み、苦しみ、そして理解し、そこから生まれた知恵を次につなげて成長してゆく事が、汚れているだろうか。理解から生まれた知恵は美しい。熟練し、洗練された魂で生きている人は本当に素晴らしい。生まれたままの幼い子供よりピュアだと思う。



でも、経験と知恵のバランスがおかしい大人の場合は…。
あとがきの続きを再び引用してみます。

経験を、単に場数として捉え、そこに含まれる意味を見逃し、知識だけを増やし、小手先だけが器用になっている人もいる。そういうのは汚い大人に見えると思う。

知識は役に立つ。でも道具にすぎない。それをきちんと利用できるのが知恵だ。知恵を得るには、いろいろな事にきづかなければならない。そして悩み、苦しみ、理解しなければ得られない。面倒臭くても辛くても、物事に向き合わなければ得られないのだ。


この通り、著者は容赦がありません。
容赦ないんだけど、本当にその通りだと思います。残念ながら、そういう大人って多い気がするし…。

人を笑わせるのが大好きだったさくらさんの原点は、やはり、極度に内向的で思索的で観察眼の鋭い、そして独特の思考回路を既に持っていた子供時代にあるようです。その上に人生経験と知恵を重ねて哲学的な笑いを花咲かせていったのだなぁ、何とすごい人だったことか!!と改めて驚嘆しています。

音楽で言ったら、チャイコフスキーの『悲愴交響曲』のフィナーレか、シューベルトの暗い曲か、ショスタコーヴィチの深刻な曲か、という感じに救いようのない暗さの本作『おんぶにだっこ』。万人にお勧めするような内容の本ではないのですが、興味を持たれた方がいらっしゃったら手に取ってみてください。

一昨日はさくらさんの一周忌だったので、久しぶりに、私の「さくらももこコレクション」から一冊ご紹介してみました。


にほんブログ村
スポンサーサイト



tag : さくらももこ,おんぶにだっこ,

カレンダー
06 | 2020/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
タグから記事へGO!
キーワードから関連記事に飛べます♪♪

バッハ シンフォニア チェルニー40番 シューマン モーツァルト チェルニー ショパン ベートーヴェン 仲道郁代 リスト K.311 メンデルスゾーン 献呈 BWV862 幻想即興曲 ハイドン 平均律第1巻 レンタル練習室 毎日の練習曲 調律 近藤由貴 春の歌 Hob.XVI:34 青柳いづみこ ハノン ブラームス アラフィフ肩 ロマンスOp.28-2 フランス組曲 幻想曲 五十肩 チェルニー30番 ドビュッシー 四十肩 K.331 無謀曲 シューベルト ららら♪クラシック BWV858 グリーグ ベトソナ22番 ベトソナ10番 ベトソナ 変奏曲 選曲会議 湯山昭 楽譜 お菓子の世界 こんまりメソッド エチュード ベトソナ28番 パルティータ ベルサイユのばら インヴェンション クラビノーバ 練習曲 バラード グランドピアノ ワルツ 指先から感じるドビュッシー 抒情小曲集 メトロノーム さくらももこ 調性 バラード2番 マリー・アントワネット 和声法 マズルカ 自分の演奏好き? ピアノ椅子 D960 スケール ピアニストは指先で考える ヨハン・シュトラウス ウィンナ・ワルツ K.334 D959 イリーナ・メジューエワ ブルグミュラー 左手のための24の練習曲 選曲 理想の先生 ヴァイオリンソナタ 「亡命」の音楽文化誌 令和 旅する作曲家たち 鷲田清一 モシュコフスキー 部分練習 交響曲 高橋多佳子 バイエル 電子ピアノ 植山けい ドゥシェック 土田京子 アルマンド 展覧会の絵 ムソルグスキー リズム変奏 マリア・テレジア ソナチネ クレメンティ K.574 無言歌 こんまり 北九州 スマホ老眼 変イ長調 響ホール リサイタル 中村紘子 好きな調 トルコ行進曲 久元祐子 指マッサージ D915 op.118-5 ピアニストは面白い ト長調 ハプスブルク帝国 ハプスブルク家 ピヒト=アクセンフェルト チェンバロ op.119-2 ピアノ記念日 ヴァイオリン 吉松隆の調性で読み解くクラシック op.118-2 op.117-1 céleste リシエツキ 間奏曲 ベレゾフスキー ツィメルマン オスマン帝国 Hob.XVI:50 小ジーグ クーラウ スマホ 20の小練習曲 子供の情景 半音階的幻想曲とフーガ 書き込み 感情をこめて弾く マズルカOp.7-1 ポロネーズ バックハウス ランラン ルービンシュタイン キーシン メソッド・タリアフェロ パスカル・ドゥヴァイヨン グランド・ソナタOp.37 チャイコフスキー カデンツ 演奏と喋り方 ピアノ騒音問題 全音ピアノピース ラデツキー行進曲 ヨハン・シュトラウス1世 ポルカ 魔笛 夜の女王のアリア プチトリアノン 妄想 曲名の略称 ウナコルダ 左ペダル 似合う曲 タグ 交響的練習曲 楽譜の視覚効果 教則本 苦手な曲種 アルペジオ 行進曲 マーチ 山枡信明 プレイエル 愛の挨拶 クラシックキャットトートバッグ 近藤麻理恵 エルガー 川嶋ひろ子 クララ・シューマン 上原彩子 お片付け祭り ブルグミュラー18の練習曲 半音階地獄 平均律 整体師 田部京子 折々のことば 好きな作曲家ランキング 島村楽器 トロイメライ 伊藤恵 伝説 ヴィルヘルム・ケンプ おんぶにだっこ つるかめ算 m.g. m.d m.s. 合奏譜 和声法がぐんぐん身につく本 五線紙ノート 宮川彬良 声部書き分け 田園ソナタ 和声法がさくさく理解できる本 マリア・ジョアン・ピリス リスト編曲版 全調スケール ベートーヴェン生誕250周年 ナイチンゲール 看護師の日 リピート付箋 リピート練習 音楽における十字架 ピアノトリオ 24番練習曲 ベアトリーチェ・ヴェネツィ マスタークラス 礒山雅 飛躍 エキエル 梅雨 自分褒め ピアノソナタ2番Op.22 カウンセリング 新型コロナ サンタクロース コピー譜 クリアファイル クリスマス K.623a オーストリア国歌 イギリス国歌 練習崩壊 チェルニー24番 マズルカOp.59-2 ペダル NHKスーパーピアノレッスン 譜読み力 ベトソナ16番 ベトソナ18番 電子メトロノーム ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら フランス王妃の受難 復習 短音階 グラナドス アルベニス 「聴く」ことの力 ゆっくり弾き 導音 まるむし帳 諸井三郎 アップライト スマホ認知症 ブランデンブルク協奏曲 イタリア協奏曲 減7の和音 クロスリズム 三瀬高原音楽祭 電子書籍 ら抜き言葉 ポーランド 楽典 似合いそうな曲 ワルトシュタイン 気象病 カテゴリー 丑三つ時 哀しみ 永遠のショパン モーツァルトの手紙 K.533+494 庄司紗矢香 岩城宏之 N響 ラ・カンパネラ 駅ピアノ K.457 小プレリュードと小フーガ ダイエット ノクターン フォーレ 音楽と文学の対位法 田島令子 チェルニー50番 クラ―マー=ビューロー リヒャルト・シュトラウス 英雄の生涯 バトン ピアノ愛好者16の質問 トンプソン 幻想曲あるいはカプリス シュタイヤー舞曲 スティリアの女 K.412 K.576 K.537 タッチ 音色 D946 脱力 K.543 演奏会用練習曲 ブログ 貴婦人の乗馬 スタッカート練習 リズム練習 手ペシ 恋するクラシック ソナタ 

プロフィール

NekoUshi

Author:NekoUshi
◆数年おきにピアノがマイブームになり、挫折と再開を繰り返しています。
◆バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンが特に好きです♪
◆レッスン歴は、子供の頃と大学生の頃(25年ほど前)に少々。現在は独学です。
◆独学の記録を時々「セルフレッスン」という名の仮想(妄想?)レッスンの形に仕立てて書いてます♪

練習中&終了曲
◇レッスン課題
・チェルニー40-31番
・バッハ 平均律第1巻17番 変イ長調
・ベートーヴェン ソナタ第22番ヘ長調

◇ベートーヴェン祭り
・ベートーヴェン ソナタ第28番イ長調~第3楽章

◇自主練
・チェルニー『毎日の練習曲』2番

◇憧れの無謀曲 寝かせ中
・リスト『バラード 第2番』
・シューマン『幻想曲』第2楽章

◇2020年の終了曲
・シューマン 3つのロマンス~第2番 嬰へ短調 Op.28-2

◇2019年の終了曲
・チェルニー30-23番
・チェルニー40-27、28、29、30番
・チェルニー左手24-19番
・バッハ シンフォニア14番、12番、7番
・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第10番ト長調~第1楽章
・ショパン『幻想即興曲』
・メンデルスゾーン『春の歌』

リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ご訪問者さまに感謝♥
にほんブログ村参加中
にほんブログ村 クラシックブログ ピアノへ
クリックよろしくお願いします<(_ _)>

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR